不整脈の発生機序と検査・治療法 笠貫 宏  東京女子医科大学教授・循環器内科,附属日本心臓血圧研究所所長 --------------------------------------------------  心臓が正常にポンプ機能を営むためには一定の調律を有する電気的興奮の生成と伝導が必要である.正常の調律は正常洞調律normal sinus rhythmと呼ばれ,正常洞調律以外の調律を不整脈arrhythmiaと呼ぶ.不整脈は,Adams-Stokes(アダムス-ストークス)症候群や心不全をきたし,心臓性突然死sudden cardiac deathの原因になる.近年,不整脈の診断と治療は著しい進歩をとげている. a.正常洞調律の電気生理学的および解剖学的基礎 [1]正常洞調律とは  正常洞調律とは,  1)洞結節から興奮が生成されること  2)刺激生成の頻度は60〜100/分であり,一定(変動が10%以下)であること  3)洞結節からの興奮は特殊刺激伝導系を正常に伝播すること である. [2]特殊刺激伝導系とは  特殊刺激伝導系は,洞結節,結節間路,房室結節,His束,右脚,左脚およびPurkinje(プルキンエ)線維からなり,心臓の興奮の生成と伝播をつかさどる(図5-138)[図]. [3]静止電位と活動電位  微小電極法,すなわち先端0.5μ以下のガラス電極を単一の心筋細胞に刺入すると,細胞膜の内側と外側には電位差が認められ,Purkinje線維では細胞内は−80〜−90mVの負電位を示す.これが静止電位である.静止電位は細胞膜に存在するNa+-K+ポンプおよびK+を選択的に通すK電流の活性化などによって成立している.静止電位レベルから陽側へ変化する状態を脱分極depolarizationといい,逆方向へ変化する状態を過分極hyperpolarizationと呼ぶ.心筋細胞は適切な刺激(電気刺激や隣接細胞からの興奮伝播)により,ある一定の膜電位レベル(閾値電位)以上になると,膜のイオンに対する透過性が変化して活動電位action potentialが発生する.Purkinje線維の活動電位は第0相から第4相までの五つの相に分けられる(図5-139)[図].  (1)第0相:膜電位が静止レベルから急激に脱分極して立ち上がる相で,約+20〜40mVの正電位(reversal potential, overshoot)を示す.これは刺激により膜に存在するNa電流が活性化されNa+が細胞内に流入する(fast inward current)ことによる.(2)第1相:正電位から急激に下降する相で,Na電流が急激に不活性化され,Na+内向き電流の減少とCl−の細胞内流入によるものである.また第1相から2相への移行には一過性外向きK電流(It0)の活性化が関与している.(3)第2相:膜電位が0mV付近から緩やかに再分極する時相であり,プラトー相とも呼ばれ,緩徐な内向きのCa電流(slow inward current)や外向き整流性K電流(IK1)の減少が関与する.(4)第3相:膜の再分極が速やかに進み静止電位に戻る相で,主に外向き遅延性整流性K電流(IK)が活性化される.(5)第4相:静止期に徐々に脱分極する相で,拡張期緩徐脱分極相slow diastolic depolarizationまたは歩調取り電位pacemaker potentialと呼ばれる.洞結節細胞では内向きCa電流(ICa)の活性化と外向きK電流(IK)の脱活性化,Purkinje細胞では過分極で誘発される内向き電流(IhまたはIf)によって形成される. [4]生理的自動能 automaticity  自動能とは,細胞が自ら刺激を生成する能力であり,既述の拡張期緩徐脱分極相によってもたらされる.自動能を有する細胞は洞結節,結節間路,房室結節(AH領域,NH領域),His束,脚,Purkinje線維に存在する.  洞結節や房室結節では−50〜−70mVの浅い膜電位レベルで認められ,内向きCa電流の増加と外向きK電流の脱活性化および過分極誘発性内向き電流によって形成される.一方Purkinje線維では−80〜−90mVの深い膜電位で認められ,主に過分極で誘発される内向き電流Na+K+によると考えられる.正常心では洞結節の刺激生成頻度がもっとも多く,第一次ペースメーカとして心臓の調律を支配している.ほかは第二次ペースメーカと呼ばれる. [5]不応性 refractoriness  細胞が一度興奮して脱分極した後の再分極相には,次の刺激に対して反応しなくなる不応期refractory periodが存在する.二つの刺激の連結期と閾値電流の関係をみたのが閾値曲線(強さ-期間曲線)である.絶対的不応期absolute refractory periodはどんなに強い電気刺激にも反応しない期間である.相対不応期relative refractory periodは大きな刺激にのみ反応する期間で,絶対的不応期から過常期supernormal period(閾値電流が完全回復期のそれよりも小さくなる時期)が始まるまでである.臨床的には有効不応期effective refractory period(興奮伝播できる活動電位が発生するもっとも早期の刺激までの時間)がよく用いられる(図5-140)[図]. [6]伝導性 conductivity  活動電位は刺激伝導系を次々に伝播するが刺激による心筋細胞の伝導速度および興奮伝播する能力は膜応答性responsivenessと呼ばれる.伝導速度は主に活動電位の振幅と最大立ち上がり速度によって規定される.静止電位が浅くなると,活動電位の振幅と立ち上がり速度は遅くなる.膜電位と最大立ち上がり速度の関係をみたのが膜応答曲線である.  心筋細胞は活動電位の波形やイオン電流により二つに大別される.(1)速い心筋線維fast cardiac fiberでは活動電位の立ち上がり速度は早く,急速なNaの細胞内流入によるものでtetrodotoxinにより特異的に抑制される.静止電位も活動電位の振幅も大きく,伝導速度は速い.心房節,心室節,心房内刺激伝導系およびHis-Purkinje系にみられる.(2)遅い心筋線維slow cardiac fiberでは活動電位の立ち上がり速度は遅く,Ca2+の細胞内流入によるもので,Mn,ベラパミルで特異的に抑制され,静止電位も活動電位の振幅も小さく,伝導速度も遅い.洞結節および房室結節にみられる. b.不整脈の発生機序  不整脈の発生機序は,(1)刺激生成の異常,(2)興奮伝導の異常および刺激生成異常と興奮伝導異常の組み合わせに大別される. [1]刺激生成異常  刺激生成異常には,拡張期脱分極による正常自動能normal automaticityの亢進に由来するものと,拡張期脱分極によらない異常自動能abnormal automaticityに由来するものがある.後者には後電位afterpotential(後脱分極after depolarizationとも呼ばれる.再分極の途中から出現する早期後電位early afterpotentialと再分極終了後に出現する遅延後電位delayed afterpotentialに分けられる),膜電位振動membrane oscillation(自動性細胞で膜電位が波状に振動する現象),境界電流boundary current(健在心筋と障害心筋の間の膜電位に差異が生じ,その結果生じる障害電流)および不完全再分極incomplete repolarizationなどが挙げられている(図5-141)[図].特に遅延後電位によるトリガードアクティビティtriggered activity(撃発活動)は心臓ペーシングで誘発,停止され,臨床不整脈の機序として注目されている(図5-141)[図]. [2]興奮伝導異常  興奮伝導異常の機序として不応性,減衰伝導decremental conduction(活動電位の振幅と立ち上がり速度の減少により興奮伝播された刺激の強さが次第に減弱し,ついには伝導が途絶する現象)および不均一性伝導inhomogeneous conduction(房室結節内で各線維の進行速度が不均一となり伝導遅延かブロックが生じる)が考えられる. [3]リエントリー reentry  伝導異常が刺激生成,すなわちリエントリーの原因となる.リエントリーとは,一つの刺激が旋回路を介して再び元の部位に戻り,興奮を起こさせる現象である(解剖学的リエントリー,またはordered reentryと呼ばれる).その成立には二つの条件が必要である.第1は一方向性ブロックunidirectional blockである.一方向性ブロックとは同一心筋線維において,順行伝導あるいは逆行伝導のいずれかがブロックされる現象である.第2は緩徐伝導slow conductionであり,リエントリーの回路を伝播する時間(旋回路の長さを伝導速度で除したもの)が興奮発生部位の不応期よりも長いことが必要である(ordered reentryと呼ばれる).リエントリーは心臓のあらゆる部位で起こりうるもので,洞結節,房室結節,His-Purkinje系,末梢Purkinje線維-心筋接合部,心房筋および心室筋でみられる(図5-141)[図].また不応期の不均一性により生じる機能的リエントリー(random reentryと呼ばれる)もある. c.不整脈の種類と分析法 [1]不整脈の種類  不整脈は,  1)刺激生成異常によるもの  2)興奮伝導異常によるもの に分類される.  前者の多くは頻脈性不整脈tachyarrhythmiaと呼ばれ,後者の多く(伝導障害に基づくもの)と前者の一部(洞徐脈,洞停止など)は徐脈性不整脈bradyarrhythmiaと呼ばれる(表5-43)[表]. [2]不整脈の分析法  不整脈を分析するためには12誘導心電図は必ずしも必要ではない.P波やQRS波形が識別しやすいことが重要で,IIあるいはV1誘導が主に用いられる.I,IIおよびV1誘導の同時記録が望ましい.  〔分析法の実際〕  図5-142[図]のごとく,P波,QRS波およびT波の時間と各波の間隔を測定する.通常は25mm/秒の記録速度で,1mmは0.04秒となる.(1)PP時間:P波とP波の間隔,健常成人では0.6〜1.0秒,(2)RR時間:R波とR波の間隔,(3)PQ時間:P波の始まりからQRS波までの時間,健常成人では0.12〜0.20秒,(4)P波形と幅:P波の始まりから終わりまでの間隔,正常成人では0.12秒まで,洞調律ではI,II,III,aVF誘導で陽性波,aVRで陰性波,(5)QRS波幅と波形:Q波の始まりからS波の終わりまでの間隔,健常成人では0.06〜0.10秒,QRS電気軸は+110°〜−30°,(6)VAT(ventricular activation time):Q波(なければR波)の始まりからR波の頂点まで,正常成人ではV5で0.05秒まで,(7)QT時間:Q波からT波の終わりまでの間隔,QTc=QT時間(秒)/√(RR)時間(秒),健常成人では0.44まで.  不整脈の正確な診断には分析図を書くことが大切である.図5-143[図]のごとく心房,房室伝導および心室の順に平行線を引く.次いで,明確に識別しうるP波とQRS波を心房と心室の欄に書き込む.P波,QRS波で正常波形と異なる場合には印をつける.PP時間,RR時間を記入しP波とQRSが伝導していると考えられる場合には両者を線で結び,PQ時間を記入する.心電図から得られる不整脈診断のための情報は,各波形の時間間隔というデジタル量と波形(パターン)というアナログ量である.したがって分析の思考過程においては,(1)RR時間の規則性,(2)PP時間の規則性,(3)PQ時間の規則性,(4)P波の幅とパターン,(5)QRS波の幅とパターンの順序で進められる.通常はRR間隔は規則正しいか,一過性に短縮か,一過性に延長か,不整に規則性があるか,RR間隔がまったく不整かという分析で行う. d.不整脈診断のための特殊検査法  診断のための検査法としてはHolter心電図,臨床電気生理学的検査,体表面電位図,および加算平均心電図などがある. [1]Holter(ホルター)心電図  Holter心電図とは携帯用の磁気テープを用いて長時間連続心電図記録を行い,後で特殊解析装置を用いて,高速再生し,解析するものである.Holter心電図の不整脈における意義としては,(1)不整脈の検出,(2)不整脈の重症度評価,(3)抗不整脈薬の薬効評価,(4)ペースメーカの機能評価,(5)心拍数変動から自律神経活動度の評価,(6)心室期外収縮など不整脈の日内変動,などが挙げられる. [2]臨床電気生理学的検査  臨床電気生理学的検査は心腔内電位図と心臓ペーシングからなる.  1)心腔内電位図 心腔内電位図は静脈ないし動脈からカテーテル電極を心腔内に挿入し,心臓の各部位での電位を記録するものである.His束心電図ではHis束部にカテーテル電極を置きHis束電位を記録する.それによってPQ時間はP波の始まりから心房下部で記録される心房電位(A波)の始まりまでの心房内伝導時間(PA時間),A波からHis束電位の始まりまでの房室結節内伝導時間(AH時間),H波の幅のHis束内伝導時間(BH時間),およびH波から心室の興奮波(V波)までのHis-Purkinje系の伝導時間(HV時間)に分けられる(図5-144)[図].したがって房室ブロックの障害部位の診断に非常に有用である.さらに房室結節の遅伝導路や副伝導路部位同定のための心房内マッピングおよび心室頻拍の発生部位同定のための心室内マッピングなどが行われる.  2)心臓ペーシング 心臓ペーシングとは心腔内電位図を記録しながら心臓の各部位で種々の刺激モードの電気刺激を加えることである.その刺激法には自己脈より早い頻度で刺激する高頻度刺激法と早期刺激を加える早期刺激法がある.心臓ペーシングの適応としては,(1)自動能と伝導能の評価,(2)発作性頻拍の評価(発作性頻拍の種類の同定,機序の分析),(3)WPW症候群の評価(副伝導路の診断,副伝導路の部位診断,頻拍発作の種類の同定と機序分析,潜在性WPW症候群の診断,およびhigh risk groupの診断),(4)電気生理学的薬効評価(抗不整脈薬の抗不整脈作用と催不整脈作用の評価),(5)ペースメーカ療法の適応決定,(6)カテーテルアブレーションの適応決定,(7)植込み型除細動器の適応の決定,(8)手術療法の適応の決定,などである.  3)体表面電位図 body surface isopotential map:体表面電位図とは,胸郭全周にわたる体表の30〜200点という多くの誘導点からWilsonの中心電極を不関電極とする単極誘導を同時記録し,瞬間ごとの体表面の電位を求めて,その等電位線図を作成するものである.体表面の電位の広がり,大きさおよび時間軸をもつ四次元で表現される.体表面電位図によって心臓内の興奮伝播過程はよく表現される.その判定は正領域と負領域の範囲,極大,極小およびbreakthroughの部位と出現時間および零線の部位によってなされる.不整脈の適応は,(1)WPW症候群の副伝導路部位診断,(2)心室期外収縮と心室頻拍の発生部位診断,(3)右脚ブロック,左脚ブロックの診断,などである.心室興奮到達時間の等時線により構成されるマップisochrone mapやQRS等積分値マップQRS isointegral mapがある.  4)加算平均心電図 体表面心電図を加算平均することによってQRS終末部の微小電位を記録する.心室遅延電位late potentialはリエントリー回路の存在を示唆し,持続性心室頻拍や突然死の予知因子となりうる.  付〕 心臓性突然死の予測として最近注目されているのがQT dispersion(12誘導心電図の各誘導の最長QT間隔と最短QT間隔の差を計測するもので,心室不応期の不均一性を反映する),T-wave alternans(T波の形態の1拍ごとの変動を意味し,T波高をスペクトル分析しμVレベルの微細な変動を検出する.再分極の不安定さを反映する),圧受容体反射感受性baroreceptor sensitivity(血圧上昇に対する副交感神経を介する反射の程度を計測する)などの検査が挙げられる. e.不整脈の重症度評価の考え方  不整脈の重症度評価とは,Adams-Stokes発作(不整脈発作による心拍出量の減少ないし途絶に起因する脳虚血症状,失神,めまい),心不全,冠不全およびショックなど重篤な症状をきたしうるか,さらには致死的になりうるかを評価することである.不整脈の重症度は種類によって異なる.したがって,不整脈の種類による重症度評価が基本となる.その観点から,重症不整脈,致死的不整脈および警告不整脈などの分類がなされている.しかし,同一不整脈でも臨床的意義が必ずしも同じではない.そのため具体的症例においての重症度の評価が必要であり,種々の観点から検討したうえで,それらを総合判断することが不可欠となる.すなわち,(1)死亡との関係からみた重症度,(2)症状との関係からみた重症度,(3)基礎心疾患からみた重症度,(4)徐脈性不整脈と頻脈性不整脈の合併からみた重症度,(5)運動および薬物に対する反応からみた重症度,(6)電気生理学的検査からみた重症度,などである. f.不整脈の薬物治療  不整脈の治療法には薬物(抗不整脈薬,ジギタリス,アトロピン,イソプロテレノールなど),心臓ペースメーカ,手術,電気的除細動器,理学的療法(眼球圧迫,頸動脈洞マッサージ,Valsalva手技など)がある.さらに植込み型除細動器およびカテーテルアブレーションなど新しい治療法がある.また不整脈の原因となる種々の病態(虚血,心不全,電解質異常など)の改善およびライフスタイルの改善(精神的,肉体的ストレスなど)も重要である. [1]抗不整脈薬の電気生理学的特性とその分類  抗不整脈薬は心筋細胞に対して電気生理学的作用をする薬剤であり,その電気生理学的特性により分類がなされている.Vaughan-Williamsの分類が広く用いられている.すなわち抗不整脈薬を4群に分類しI群を3亜群に分類している(表5-44)[表].1991年,本分類の限界が指摘され新しい分類(Sicillian Gambit)の試みがなされ,病態生理学的薬剤選択が提唱されている.  1)I群 I群は,興奮性膜の速いNa電流を抑制することにより膜安定化作用を有する.活動電位の第0相の立ち上がり速度を抑制し,最大電位を減少させ,その結果伝導速度を遅延させる.活動電位持続時間に対する影響およびNa+チャネルとの反応の結合,解離の速度の違いから3亜群に分類される.  (1)Ia群:Purkinje線維の活動電位を延長させ,有効不応期を延長させる.また第4相拡張期脱分極を抑制する.Na+チャネルに対する結合,解離の速度はIb群とIc群の中間にある(intermediate kinetics).キニジン,プロカインアミド,ジソピラミド⇒,シベンゾリン,ピルメノールなどが含まれる.  (2)Ib群:Purkinje線維の活動電位持続時間を短縮させ,不応期を短縮させる.Na+チャネルとの結合,解離の速度は速い(fast kinetics).リドカイン⇒,ジフェニールヒダントイン,メキシレチン,アプリンジンが属する.アプリンジンは活動電位持続時間を短縮させるがNa+チャネルとのカイネチクスは中間に属する.  (3)Ic群:Purkinje線維のNa+チャネルの抑制は著明であるが,活動電位持続時間は短縮,不変と一定でない.Na+チャネルとの結合,解離の速度はもっとも遅い.フレカイニド,プロパフェノン,ピルジカイニドが属する.  2)II群 β遮断薬であり,β受容体遮断作用を有する.種々の付加的特性(膜安定化作用,内因性交感神経刺激作用,心臓選択性およびα受容体遮断作用など)によってさらに細分されている.プロプラノロール,ピンドロール⇒,アセブトロールなどである.  3)III群 活動電位持続時間の延長作用を有し,主な機序はKチャネル抑制である.アミオダロン,ソタロール,ニフェカラントがある.  4)IV群 Ca拮抗薬で,細胞膜におけるCa2+の細胞内流入を抑制するもので,洞結節の自動能や房室結節の伝導能を抑制する.ベラパミル,ジルチアゼム,ベプリジルが属する. [2]抗不整脈薬の薬物動態学,薬力学  薬物動態学pharmacokineticsは薬物体内動態の速度過程の解析およびその過程の機構を研究するものであり,薬物の体内運命すなわち薬物の吸収,分布,代謝および排泄をみるものである.薬力学pharmacodynamicsは薬物と生体の相互作用を生体側の反応,すなわち薬理作用からみるものである.抗不整脈薬の投与計画において両者が重要な理由としては,(1)効果が出現するためには最小有効血中濃度が必要であること,(2)致死的になりうる危険な中毒作用が出現すること,(3)中毒濃度と最小有効濃度の幅すなわち治療域が狭いこと,および(4)半減期が比較的短いこと,が挙げられる(図5-145)[図].したがって薬物動態学の原理(例えば維持量をその薬剤の半減期に等しい投与間隔で投与すると定常状態に達するのに半減期の4〜5倍の時間を要し,初回からの定常状態の濃度を得るためには維持量の約2倍の初回量loading doseが必要となるなど)および各薬剤の半減期,分布容積,排泄経路,最小有効濃度および中毒濃度について知ることが必要である(表5-45)[表].表5-46[表]は薬剤の常用量を示す.さらに,心不全,肝機能障害および腎機能障害によって半減期や分布容積は変化する.例えば,リドカイン⇒は心不全症例では分布容積は減少し,心拍出量と肝血流量の減少により半減期は延長して血中濃度は上昇し,常用量でも中毒濃度に達する.  抗不整脈薬は併用薬との相互作用も重要である.相互作用は薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用に分類される.前者にはキニジンとジゴキシン⇒の相互作用がある.キニジンはジゴキシン⇒の分布容積の減少,尿細管分泌の抑制および腎クリアランスの減少などによりジゴキシン⇒の血中濃度は上昇する. [3]抗不整脈薬の副作用  抗不整脈薬は強力な効果を有する反面,重篤な副作用を有する(表5-47)[表].副作用としては催不整脈,陰性変力作用による心不全,血圧低下,肺毒性,消化器症状,血液障害(顆粒球減少症など),神経症状,肝障害,過敏症および排尿障害などがある.最も注目すべきことは不整脈の治療薬でありながら不整脈の増悪や新たな重症不整脈を誘発すること(催不整脈作用proarrhythmic effect)である.催不整脈には徐脈性不整脈のみならず,頻脈性不整脈が含まれる.  1)頻脈性催不整脈 心室性頻脈性不整脈としては,(1)torsades de pointes(QT延長を伴う多形性心室頻拍),(2)単形性持続性心室頻拍および心室細動の新たな出現,(3)多形性心室頻拍(QT延長を伴わない)の新たな出現,(4)incessant型心室頻拍の出現,(5)非持続性心室頻拍の新たな出現,(6)持続性心室頻拍の頻脈化,心室細動への移行,(7)血行動態的に悪化をきたす心室頻拍の出現,停止困難な心室頻拍の出現,(8)心室性期外収縮,非持続性心室頻拍の頻度の増加が挙げられている.  QT延長に伴うtorsades de pointesはKチャネル抑制作用を有する薬剤によって誘発される.すなわちIa群のキニジン,ジソピラミド⇒,プロカインアミド,ピルメノール,シベンゾリン,III群のアミオダロン,ソタロール,ニフェカラントやIV群のベプリジルによるtorsades de pointesが報告されている.メキシレチン,アプリジン,リドカイン⇒によるQT時間延長を伴わない多形性心室頻拍も報告されている.incessant型心室頻拍は自然発生がまれであり,Naチャネルを抑制するI群薬によることが多い.  抗不整脈薬による上室性頻脈性不整脈はまれと考えられているが,その実態は明らかではない.心房頻拍,心房粗動に対するIa群の薬剤による奇異性頻脈paradoxical tachycardiaがある.リエントリー性上室頻拍では,抗不整脈薬の伝導抑制と不応性に対する影響により,リエントリーが増悪,誘発されることがある.  2)徐脈性催不整脈 洞結節機能抑制による洞徐脈,洞停止,洞房ブロックは,IV群,III群,II群およびI群の薬剤の過量投与で生じうるが,常用量でも潜在性機能障害が存在する場合には顕在化する.第2度および第3度房室ブロックではAHブロックはII,IIIおよびIV群の薬剤により,BHおよびHVブロックはI,III群の薬剤により誘発される.  3)抗不整脈薬の選択 表5-48[表]に各種不整脈の予防のための抗不整脈薬の選択順位を示す. 今日の診療プレミアム Vol.13 DVD-ROM版 (C) 2003 IGAKU-SHOIN Tokyo